外国人美容師の就労がいよいよ解禁へ

外国人美容師の就労がいよいよ解禁されます。東京都は先日、国家戦略特区を活用し、外国人が美容師として就労できる全国初の事業を2022年10月から開始すると発表しました。内閣府 国家戦略特区 外国人美容師育成事業の実運用のスタートです。今回は、新しく始まる本制度について、詳しく解説していきます。

美容師として就労できる在留資格(現行制度)

日本の美容室は、センスやスキルが高いなどの理由から、将来、美容師として活躍するために、日本の美容専門学校で学ぶ外国人留学生がたくさんいます。外国人留学生も日本人学生と同様、日本の美容専門学校で2年間学び、国家試験に合格すれば美容師免許を取得できます。

しかしながら、現行の制度では、外国人が美容師免許を取得しても、日本で美容師として就労するための在留資格自体が存在しなかったため、身分に基づく在留資格等を取得する以外の方法で、美容師として働くことができませんでした。

(1)現行制度において美容室で働くことのできる在留資格 (a)永住者
(b)日本人の配偶者等
(c)永住者の配偶者等
(d)定住者
(e)留学または家族滞在
※ただし週28時間以内のアルバイト就労の資格外活動許可を受けた場合

そうしたなか、日本の美容製品の輸出促進や、インバウンドの需要に対応するため、一定の要件の下で、日本の美容師養成施設を卒業し、美容師免許を取得した外国人留学生に対し、美容師として就労するための在留資格を最大5年間認める「外国人美容師育成事業」が発表されました。

外国人美容師育成事業の内容

この外国人美容師育成事業ですが、育成機関や監理実施機関、関係自治体との連携が必要になる制度で、従来の就労ビザとは異なるシステムで運用される制度になります。それぞれ詳しく見ていきましょう。

外国人美容師育成事業の目的

(1)国家戦略特別区域 外国人美容師育成事業実施要領
・外国人美容師育成事業の目的は、以下のように定められています。

『この要領は、我が国で美容に関する実践経験を積んだ人材の海外における活躍を推進することを通じて、日本の美容製品の輸出による産業競争力の強化やブランド向上を含むクールジャパンの推進を図るとともに、インバウンドの需要に対応するため、日本の美容師免許を有する外国人材を育成する国家戦略特別区域 外国人美容師育成事業(以下「本事業」という。)に関して、その実施に必要な事項を定め、もって本制度を適正かつ円滑に実施することを目的とする。』

つまり、本制度の目的は、美容師人材の雇用の確保を目的としているのではなく、日本で学んだ美容に関する技術や知識を、本国に帰国後広く発信する人材の育成を目的としています。

➡ですので、本制度の対象となる人材は美容師養成施設を卒業し、美容師免許を取得した(もしくは取得する見込みがある)人に限られます。単なる掃除などの単純労働に従事する者として雇用することは絶対に認められません。また、外国人美容師育成事業では、身分に基づく在留資格のように自由に就労できるという訳ではありません。育成機関(日本の美容室)が定める研修計画に沿って、技術や知識を身に着けるための就労にのみ従事することが認められます。

外国人美容師が従事できる業務の範囲

外国人美容師育成事業において、外国人美容師は、育成機関(日本の美容室)の指揮監督のもと、育成計画の中で規定された美容に関する技術や知識を身に着けるための業務を行うことになります。具体的には以下の業務を行うことが認められます。

■外国人美容師が従事できる業務の範囲■
(1)シャンプー
(2)カット
(3)トリートメント
(4)ブロー
(5)セット・アイロン
(6)カラー
(7)パーマ・縮毛矯正
(8)ヘッドスパ
(9)まつげエクステンション
(10)ネイル
(11)エステティック
(12)着物着付け
(13)メイク
(14)洋装ブライダル
(15)出張美容
(16)美容所の経営管理等
(17)関係自治体が必要と認める業務
(18)上記以外のその他不随業務

➡外国人美容師育成事業において、外国人美容師の方が従事することができる業務の範囲はあらかじめ定められています。上記以外の業務(チラシ配布等)に専ら従事することは認められません。ただし、育成計画に定められた主たる業務に付随する業務として行うことは可能です。

外国人美容師育成事業の各種要件

外国人美容師育成事業の制度を利用するにあたり、外国人美容師、育成機関、監理実施機関それぞれに要件が求められます。それぞれに求められる要件に関して、詳しく見ていきましょう。

■外国人美容師育成事業制度の相関図■

外国人美容師の要件

外国人美容師育成事業制度において、外国人美容師として就労するには以下の要件を満たすことが必要になります。特に資格要件として、美容師免許取得だけではなく、日本語能力試験N2以上の合格が求められますので、ハードルは非常に高いものとなります。

■外国人美容師に求められる要件■
(1)美容専門学校を優秀な成績で卒業した留学生であること
(2)在留期間中の素行が善良であること
(3)美容師免許の取得(取得見込みを含む)
(4)日本語能力試験N2以上
(5)18歳以上であること
(6)日本式の美容の技術・文化を世界に発信する意思があること

上記要件のうち、『美容専門学校を優秀な成績で卒業した留学生であること』に関して、『成績』だけではなく、『出席率』も確認されます。留学生の場合、資格外活動許可を受けて週28時間以内の範囲でアルバイトをすることが認められますが、アルバイトの影響で専門学校の出席率が低い場合や、資格外活動許可の範囲を超えてアルバイト活動を行っていたことが判明した場合、「留学」からの在留資格変更が認められないこともあるため注意が必要です。

育成機関の要件

育成機関とは外国人美容師が働く美容院のことをいいます。法律的には、美容師法に定められた「美容所」になります。そのため、外国人美容師は理容法で定められた理容院(散髪屋・床屋)で働くことはできません。あくまで美容師として美容院(美容所)で働くための在留資格です。育成機関(美容所)は以下の要件を満たしている必要があります。

■育成機関に求められる要件■
(1)美容師法第12条の3に規定する管理美容師を配置している
(2)育成計画を実施できる美容所を、事業実施区域に有していること
(3)健全かつ安定的な経営状況であると認められること
(4)労働に関する法律の規定及び社会保険に関する法律の規定を遵守していること
(5)就労する外国人美容師が3名以内であること
(6)日本人従業員と同等以上の報酬を支払うこと
(7)欠格事由に該当していないこと

➡上記要件のうち、「労働に関する法律の規定及び社会保険に関する法律の規定を遵守していること」に関して、美容室の場合、社会保険や労働保険の適用関係が、法令に反している場合があります。育成機関となる美容所は、社会保険や労働保険(健康保険・厚生年金保険・雇用保険等)の加入要件や加入状況を十分に確認する必要があります。

監理実施機関の要件

外国人美容師育成事業には、外国人美容師と育成機関(美容所)以外に、外国人美容師の就労や生活をサポートし、育成計画を監理・監督する「監理実施機関」という組織があります。監理実施機関は、関係自治体より認定を受けることになりますが、以下の要件を満たしていることが必要になります。

■監理実施機関に求められる要件■
(1)外国人美容師育成事業に係る育成計画の策定及び実施に関する管理に必要な事務を行う人員等が確保されていること
(2)外国人美容師育成事業に係る育成計画の策定及び実施に関する管理を行うことを健全に遂行するに足りる財産的基礎を有するものであること
(3)職業安定法に基づく無料職業紹介の許可を受けていること又は届出を行っていること
(4)営利を目的としていない日本国内の法人であること
(5)外国人美容師等の苦情および相談を受ける窓口を設け、適切に対応できる体制が構築されていること
(6)欠格事由に該当しないこと
育成計画について

育成機関となる美容所は、外国人美容師の知識の向上や技術の習得のための育成計画を作成し、育成計画に監理実施機関の意見書を添付して、関係自治体に提出します。育成計画を作成する上でのポイントは以下の通りになります。

■育成計画作成上のポイント■
(1)計画の内容が期間全体を通じて実践的な美容に関する知識及び技能の向上が図られることが確実と認められること
(2)実践的な美容に関する知識及び技能を必要としない業務又は同一の作業の反復のみによって習得できる美容に関する業務に従事させるものでないこと
(3)実践的な美容に関する意識及び技能に係る習得状況の評価について、その実施体制、方法、実施項目等が適切であると認められること

➡育成計画期間中の雇用契約に関しては、以下の点に十分注意する必要があります。

(1)外国人美容師の報酬は、日本人の美容師が従事する場合と同等額以上であること
(2)労働契約の不履行に係る違約金を定める雇用契約ではないこと
(3)育成機関や監理実施機関から保証金を徴収される雇用契約ではないこと
(4)外国人美容師の育成期間は最大で5年間であること
外国人美容師育成事業についてのQ&A

外国人美容師育成事業に関するQ&Aについては、下記関連リンクをご参照ください。
➡関連リンク:内閣府 国家戦略特区 外国人美容師育成事業に関するQ&A

外国人美容師就労ビザの取得について

在留期間は最大5年間になりますが、美容専門学校を卒業する留学生が美容師として働くことができる本制度は画期的な制度です。アフターコロナの今後は間違いなくインバウント需要は増加します。同時に国内の外国人在留者数も増えていきます。

「自分の国の美容師さんがいればお願いしたい」と希望する外国人の方は意外に多いです。今後のインバウント需要の増加、外国人在留者数の増加を想定して、外国人美容師の受け入れを積極的に行うことは、日本の美容室にとって他店との差別化、競争力の強化につながるのではないでしょうか。

ただし、外国人美容師の就労ビザ取得はかなり難易度の高いものになります。外国人留学生は美容師免許を取り、日本語能力試験N2に合格する必要があります。また、育成機関である美容院は、育成計画を作成し、関係自治体の認定を受け、監理実施機関のチェックを日々受ける必要があります。

また、本制度における外国人美容師ビザの取得については、入管法だけではなく、労働関係法令、社会保険各法などの遵守も必要になります。外国人美容師の受け入れを検討されている場合、是非当事務所までご相談ください。まだまだ始まったばかりの制度ですが、最後までしっかりとサポートさせていただきます。

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